家族はみんな、私をパクる偽令嬢を偏愛する

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家族はみんな、私をパクる偽令嬢を偏愛する

GoodNovel 完結

私・蘇我美月(そが みつき)は、家族から愛されない、本物の令嬢だった。 心血を注いで描き上げたデザイン画を次兄に奪われ、偽物の令嬢へと贈られた。 そのうえ私は盗作した泥棒だという濡れ衣を着せられ、大富豪の父は命令を下し、業界全体から私を締め出した。 偽物の令嬢は謝るふりをしながら、私を崖から突き落とした。 意識を失った私は、全身に粉砕骨折を負った状態で目を覚まし、救助隊長を務める婚約者に助けを求めた。 だが彼は、足を捻った偽物の令嬢を抱きかかえながら、冷たい声で電話口で怒鳴りつけた。 「お前も事故に遭ったなんて、すいぶん都合のいい話だな。俺に助けに来てほしいのか?はっ、笑わせるな。そのまま死ねばいい」 激しい痛みに苛まれながら、私の身体は次第に冷たくなっていった。 法医学者である長兄は、私の遺体を解剖しながら、偽物の令嬢の誕生日を祝ってやれなかったことを嘆いていた。 けれど、再び私と顔を合わせたとき、彼らは皆、涙を流しながら私に許しを乞うのだった。

チャプター (1)

第1章

私・蘇我美月(そが みつき)は、家族から愛されない、本物の令嬢だった。 心血を注いで描き上げたデザイン画を次兄に奪われ、偽物の令嬢へと贈られた。 そのうえ私は盗作した泥棒だという濡れ衣を着せられ、大富豪の父は命令を下し、業界全体から私を締め出した。 偽物の令嬢は謝るふりをしながら、私を崖から突き落とした。 意識を失った私は、全身に粉砕骨折を負った状態で目を覚まし、救助隊長を務める婚約者に助けを求めた。 だが彼は、足を捻った偽物の令嬢を抱きかかえながら、冷たい声で電話口で怒鳴りつけた。 「お前も事故に遭ったなんて、すいぶん都合のいい話だな。俺に助けに来てほしいのか?はっ、笑わせるな。そのまま死ねばいい」 激しい痛みに苛まれながら、私の身体は次第に冷たくなっていった。 法医学者である長兄は、私の遺体を解剖しながら、偽物の令嬢の誕生日を祝ってやれなかったことを嘆いていた。 けれど、再び私と顔を合わせたとき、彼らは皆、涙を流しながら私に許しを乞うのだった。 第1話 法医学者の長兄は、慌ただしく事件現場へ駆けつけた。 「遺体の状況は?」 長兄は、目の前に横たわる、ひどく腐敗し、見る影もなく損壊した遺体を見つめた。 そして、眉間に深い皺を寄せる。 笑ってしまうほど皮肉なことに、私が死んで初めて、長兄が私のためにこんなにも焦った顔を見せている。 蝿が、腐敗して崩れかけた私の身体の周りを飛び回っている。 顔の皮膚は切り取られ、さらに動物に食い荒らされていて、もはや顔立ちすら判別できない。 助手は遺体を前に込み上げる吐き気を必死に堪えながら言った。 「顔の皮膚がすべて剥ぎ取られています。死に方も極めて悲惨です。怨恨による殺人の可能性も排除できません」 長兄は私の遺体を調べながら、低い声で言った。 「後頭部に鈍器で殴られた痕がある。殺人と見て間違いないだろう」 その言葉が終わるや否や、長兄のスマートフォンが鳴った。 「お兄さん、今夜は早めに帰ってきてお祝いしよう。柔子のジュエリーデザインがコンテストの最終候補に選ばれたんだから!」 長兄は困ったように眉をひそめた。 分かっている。 検死のせいで蘇我柔子(そが やわこ)のそばにいてやれないことを、長兄は気に病んでいるのだ。 もし長兄が、この解剖を待っている遺体が私だと知ったら、きっと私を罵倒するだろう。 何しろ、私自身でさえ自分の遺体だと気づけないほどなのだから。 もともと私を疎んでいた長兄が、こんな見る影もない遺体を、実の妹だとどうして見分けられるだろう。 長兄は口を開いた。 「今夜は仕事がある。帰れるかどうか分からない。お前は父さんと一緒に柔子のそばにいてやれ。あの狂人のことで、あの子を悲しませるなよ」 私は苦笑した。兄が口にした「狂人」が誰を指しているのかなんて、疑いようもなかった。 次兄が鼻で笑う。 「美月が何だっていうんだ。俺たちの妹を悲しませるなんて許されない。もし家に戻ってきて騒ぎを起こすようなら、俺があいつの足をへし折ってやるぞ」 私は目を伏せ、瞳に滲んだ悲しみを隠した。 私はもう、あの家には帰れない。 それに、あそこは最初から私の家ではなかった。 誰が想像できるだろう。あの大富豪の家に、ようやく見つかった実の娘がいるというのに、その娘が薄暗く湿った地下室で暮らしていたなんて。 ただ、柔子が「突然家に姉が増えるのは落ち着かない」と一言こぼした。 それだけの理由で、私は大雪の降る日に家の外へ締め出された。犬小屋で夜を明かしたことさえある。 …… 突然、長兄が遺体の手首にあるブレスレットに目を留めた。それは、長兄が私にくれたブレスレットだった。 「じゃあ、切るぞ。こっちはまだ仕事がある」 長兄は電話を切ると、そのブレスレットをじっと見つめた。 その目に、一瞬だけ疑念がよぎる。 しばらく見つめたあと、長兄は首を横に振り、小さく呟いた。 「美月のブレスレットは、とっくに本人が壊している。同じアクセサリーを身につけている人間なんて、いくらでもいる」 そう言うと、長兄は私の手首からブレスレットを外し、証拠品袋へ入れた。 私は小さく息を吐いた。 苦い涙が、目尻から静かにこぼれ落ちる。 長兄は、私に贈ったブレスレットを、ちゃんと覚えていた。 あれは、長兄が柔子のためにジュエリーをオーダーメイドした際、ブランドからおまけとして贈られてきたものだった。 そのとき長兄は、まるでペットにえさをやるように、何の気なしに私の胸元へブレスレットを投げた。 「柔子はこんな俗っぽいデザイン、気に入らないだろ。お前が使えばいい」 私はそれを宝物のように大切にして、手首につけた。 家に戻って5年、それが私が初めて受け取った、家族からの贈り物だった。 私が嬉しさのあまり舞い上がっている姿を見て、普段は険しい長兄の顔にも、珍しくほんの少しだけ温かな表情が浮かんでいた。 けれど、喜びに我を忘れていた私は、柔子の瞳に浮かんだ悪意に気づかなかった。 それから数日もしないうちに、風呂から上がった私は、ブレスレットが泥まみれの花壇の中に投げ捨てられているのを見つけた。 長兄は冷たい顔で私を見つめた。 「いらないなら捨てればいいだろ。兄妹の仲がいいふりなんかするな」 その後、私は大金を払って、どうにかブレスレットを修理した。 それでも兄が私をまともに見てくれることは、二度となかった。 死んでしまったほうがよかったのかもしれない。 少なくとも、血を分けた家族から、これほどまでに執拗な抑圧と侮辱を受け続ける必要は、もうないのだから。 第2話 検死は極めて難航していた。それでも長兄は時間を割いて、一度家に戻った。 何しろ今夜は柔子の祝賀会がある。愛する妹にとって大切な日を、彼が欠席するはずもなかった。 長兄が疲れ切った様子で家に戻ると、柔子は私の婚約者である東山明雄(ひがしやま あけお)に寄り添い、楽しそうに笑っていた。 その傍らでは、次兄が山のように積まれたプレゼントの箱を指差して笑った。 「柔子はこんなに優秀なんだから、最高のプレゼントがふさわしいだろ」 父は、私に向けるときのような冷淡さや嫌悪感など微塵も見せず、慈愛に満ちた顔で彼らを見つめていた。 私の胸が、ずきりと締めつけられた。 ここにいるのは、紛れもなく私の家族だ。なのに、私は永遠に家族の一員だと認めてもらえない。 下水道のネズミですら、幸福を垣間見る権利くらいあるというのに、私は地下室に閉じ込められ、外から聞こえてくる楽しげな笑い声に、ただ耳を澄ますことしかできなかった。 しかも死んだあとでさえ、彼らが私を罵る声を聞かされることになる。 柔子は明雄から飲み物を受け取り、笑顔で口にすると、美しい瞳をぱちぱちと瞬かせた。 「お姉ちゃんを呼び戻して、一緒にお祝いしたい」 それを聞いた次兄は、途端に顔を曇らせた。 「こんなときまで、あの性悪女のことを考えるのか?家であいつにいじめられてるっていうのに、やっぱり柔子は優しすぎるんだよ」 長兄も同意するように頷いた。 「あいつはお前のデザイン画を盗んだうえ、遊びに誘ってお前を突き飛ばして怪我をさせたんだ。一生家に帰ってこなくていいくらいだ!」 「2日前には、俺にも助けを求める電話をかけてきた。怪我したふりをして、助けに来てほしいってな」 明雄の口元に浮かんだ冷笑が、私の目を刺すように痛んだ。 彼らが口にする一つ一つの出来事は、すべて柔子が私になすりつけた濡れ衣だった。 家に連れ戻されたばかりの頃、私はブランド品のことなんて何も知らなかった。 柔子と話が合わないのが気になって、高級ブランドについて必死に勉強し、ジュエリーデザインまで学んだ。 そして、ひょんなことから私はアクセサリーをデザインすることが好きになった。 柔子は私が描いたネックレスのデザイン画を気に入り、一枚、また一枚と奪っていった。 私はこっそりコンテストに応募し、賞を取った。 すると柔子は泣きながら、私が彼女のデザイン画を盗んだと訴えた。 ただ「ごめんなさい」の一言を言わせるために、次兄は問答無用でバットを振り下ろし、私の身体を何度も激しく殴った。 唇を噛みしめて血が滲んでも、私は決して、この盗人の柔子に謝ろうとはしなかった。 それなのに最後に恥辱の晒し台に縛りつけられたのは、なぜか私だった。 父は唇を固く結び、低い声で言った。 「柔子があいつに会いたいと言うなら、一度帰ってこさせろ。跪いて謝らないというなら、蘇我家にあいつの居場所はない。あんな娘は、もう娘ではない」 父の断固とした言葉を聞いて、私は思わず口元を覆い、嗤ってしまった。 世間の人間が知っているのは、柔子という、誰からも溺愛されている令嬢だけだ。 そして私は、蘇我家に取り入って金をせびる貧乏な親戚だと思われている。 柔子の周りを取り巻くこの数人を除けば、私こそが蘇我家の本当の娘だと知る者など誰もいない。 父の許可が下りると、柔子は待ちきれない様子で私に電話をかけた。 家族が私の身勝手な家出を罵るところを、どうしても見たかったのだろう。 だが、電話の向こうから聞こえてきたのは、電源が切られていることを告げる音声だけだった。 柔子は笑いを必死に堪えながら、目の前にいる家族を不安そうに見つめた。 「お姉ちゃん、電源を切ってる。私たちに怒ってるのかな。もう何日も家に帰ってきてないし…… このままずっと連絡がつかないのもよくないよね。お母さんの命日にも帰ってこなかったし……」 父の顔色が変わり、目つきが暗くなった。 「あの恩知らずめ。まさか俺が泣いて頼むまで帰ってこないつもりか?自分の母親の命日すら覚えていないなんて。あいつが誘拐されたとき、探しに行くべきじゃなかったんだ!」 次兄はさらに激昂し、箸を床に叩きつけた。 そして最後には、吐き捨てるように罵った。 「あの時、美月は死ぬべきだった!あんな畜生、この世に生きている資格なんかない!」 彼らが怒りに満ちた顔で私を罵る姿を見て、私はなぜか可笑しくなった。 あのとき私が誘拐されたのは、兄たちが私を遊園地へ連れて行き、私を見失ったからだ。 私を探しに出た母は、交通事故で亡くなった。 兄たちは、自分たちが遊びに夢中になって私を失ったことを悔やむどころか、今になって私を責めている。 長兄は眉をひそめ、ため息をついた。 「美月は家に戻ってきてから、騒ぎばかり起こしている。あのとき母さんが『あの子を見つけてほしい』と言い残さなかったら、本当にあいつを外で野垂れ死にさせておけばよかった」 私はぼんやりと彼らを見つめた。 自分の耳で聞いた言葉が、どうしても信じられなかった。 家に連れ戻される前、私は幸せな家庭を手に入れられると思っていた。 だが実際に、私の人生はそこから暗闇に覆われていった。 彼らは私の無口で面白みのない性格をあげつらった。 家に戻ったばかりの私が、ぼろぼろの服を着て、何をするにもおどおどしていることを嫌った。 次兄は、ある夜、私の部屋に忍び込み、私の首を力いっぱい締めつけた。 そして私に、「柔子をいじめるな!俺たちから愛されようなどと思うな!」と言った。 あのときの私の身体は、今と同じように冷え切っていた。 彼らが私に浴びせる、ためらいのない罵声と疑いの言葉を聞いていると、まるで奈落の穴に突き落とされたようだった。 もし本当に彼らの言うとおりなら、私はこんな誰もが羨むような大富豪の家に、戻ってこなければよかった。 明雄の祖父は、昔から、親同士で決めた婚約相手は私だと、ことあるごとに言っていた。 柔子は涙を浮かべながら、「明雄さんをお姉ちゃんに譲る」と言った。 それなのに、誰一人として私の気持ちを尋ねようとはしなかった。 私は必死に礼儀作法を学んだ。 けれど兄たちも婚約者も、私のことを「似合いもしないのに真似して、滑稽なだけだ」と笑った。 私が一着のワンピースを買えば、父は私を「見栄っ張りだ」と責めた。 柔子が少し眉をひそめるだけで、私は次兄に容赦なく殴られた。 私は両耳を塞ぎ、全身を震わせながら身体を丸めた。 もう、彼らの冷笑も、嘲りも、聞きたくなかった。 そのとき、柔子のスマートフォンの着信音が鳴り、彼らの非難の声を遮った。 電話の向こうから、謎めいた声が聞こえてきた。 「柔子、あの貧乏な親戚を見かけたよ!産婦人科にいる!」 第3話 柔子も驚きを隠せなかった。何しろ、私を崖から突き落としたのは、ほかでもない彼女自身なのだから。 彼女の顔色が変わり、唇がわずかに震えた。 「いつ、お姉ちゃんを見たの?家族みんな、お姉ちゃんと連絡が取れなくて心配してるの」 電話の向こうは一瞬黙り、記憶を辿るように言った。 「数日前に病院へ行ったんだけど、あの生気のない顔がすぐに目に入ったよ」 柔子はほっと息を吐くと、わざと慌てたように相手の言葉を遮った。 「変なこと言わないで!お姉ちゃんはそんな人じゃないよ」 父は鼻息を荒くした。 すると、怒りで顔を真っ赤に染めながら、吐き捨てた。 「このろくでなしめ、外にまで恥をさらしやがって!どうして俺には、こんなふしだらな娘がいるんだ!」 次兄は明雄の肩を軽く叩いた。 「お前が好きになった相手があいつじゃなくて、本当によかった。美月は嘘ばかりつく卑しい女だ」 明雄も同感だと言わんばかりに頷き、柔子を優しい眼差しで見つめた。 「俺が愛しているのは柔子だけだ。あんな恥知らずな女とは、絶対に結婚しない」 自信満々に言い切る彼の声を聞き、私は口元に皮肉な笑みを浮かべた。 また、これだ。 私が悪いかどうかなんて関係ない。彼らは決して私の言い分を聞こうとはしない。 何の確認もせず私に冤罪に着せ、勝手に罪人に仕立て上げる。 私は家の中で、息を潜めるように生きていた。ただ普通に暮らしたかった。 けれど、蘇我家の人間と明雄のせいで、そのささやかな願いさえ、今では叶わぬ夢になってしまった。 私は、生き残る機会がなかったわけではない。 柔子に殴られて気を失い、崖から突き落とされたあと、私が目を覚ましたとき、スマートフォンの電池は残りわずか1%だった。 母を死なせたのは私だと思い、私を恨み、柔子ばかりを庇う父と兄たちを思い浮かべた。 私は、救助隊長を務める明雄に電話をかけることを選んだ。 誘拐される前の幼い頃、小さかった彼が私の手を握り、誓うように言ったことを、私はかすかに覚えていた。 「美月、僕が一生お前を守るから」 けれど、その言葉は今や、私をひとりきりで閉じ込めるだけの記憶になっていた。 私は必死に明雄へ助けを求めた。 「スマホの電池がもうすぐ切れるの。早く助けに来て……」 だが、場所を伝えるより先に、明雄は苛立った声で遮った。 「また事故に遭ったのか?俺がお前を信じるとでも思ってるのか。死ぬにしても、俺の目の前では死ぬな」 電話が切れる直前、私は彼が柔子に優しい声をかけるのを聞いた。 「足を捻ったら、きっと痛いだろうな。全部、美月がお前を山登りに誘ったせいだ。それなのにあいつ、自分が怪我をしたふりをして俺に助けに来させようとしたんだ。自分が何様だと思ってるんだ!」 電池が切れてスマートフォンの電源が落ちた瞬間、私は自分の身体から血が噴き出す音を聞いたような気がした。 大粒の雨が、皮膚を切り取られた私の顔に降り注いでいた。 けれど私はもう、身体の痛みすら感じなかった。 ただ心臓だけが、締めつけられるようにズキズキと痛んでいた。 それが教えてくれていた。私は、世界中の誰からも見捨てられた日に死んだのだと。 そして死ぬ直前まで、私は父や兄たちに受け入れてもらうことを願っていた。 濡れ衣が晴れ、兄が申し訳なさそうな顔で「俺が誤解していた」と言ってくれること、そして父が私を哀れみ、強く抱きしめてくれることを期待していた。 柔子は心配そうな顔を作って言った。 「やっぱり、お姉ちゃんが帰ってくるのを待って、お腹の子が誰の子なのか聞いたほうがいいよ。お母さんが今のお姉ちゃんの姿を知ったら、きっと悲しむよね」 父は、柔子がわざと擦って赤くした目を見て、慰めるように言った。 「柔子、心配するな。あいつが帰ってきたら、腹の中の子供を堕ろさせる。そして、あの恩知らずとは縁を切る! あいつを探しに行った母親が死んだのに、墓参りにすら帰ってこないなんて薄情すぎる!」 柔子は、いとも簡単に父と兄たちの怒りを煽っていった。 彼女は目を伏せ、瞳の奥に潜むほくそ笑みを隠した。 「お父さん、お兄ちゃんたちも怒らないで。お姉ちゃんはずっと、私を養子にしたことを恨んでるんだよ。お母さんや、この家にだって何の愛情もないんだと思う」 次兄は首筋に青筋を浮かべ、歯ぎしりしながら吐き捨てた。 「美月の恩知らずめ!父さんがあいつを業界から締め出したくらいじゃ甘すぎたんだ。足をへし折って精神病院に放り込んで、一生閉じ込めてやればよかった!」 私が胸の奥に何年も押し込めていた苦しみと憎しみが、一気に噴き出した。 次兄の肩を掴み、私は大声で「私は、一度だって悪くなかった!」と叫びたかった。 産婦人科へ行ったのは、道端で倒れている妊婦に偶然出くわし、私が彼女を病院まで運んだからだった。 なのに家族は、診断書すら見ていないくせに、私が外で男遊びをして未婚のまま妊娠したのだと決めつけた。 柔子に、私が心血を注いだデザインを奪われた。 生活のために働きに出ようとした私は、父によって業界から締め出された。 あの頃、父は茶碗を私の額に叩きつけ、傷口から血が流れていることなど一切気にせず怒鳴った。 「美月、金持ちの娘として外へ働きに出るだと?お前が恥知らずでも、俺まで恥をかかされるのは御免だ!」 私は仕方なく、身元を隠して小さなデザインコンテストに参加し、賞金を稼いで生活を繋いだ。 賞金で買ったプレゼントも、父と兄たちは無情にもゴミ箱へ放り捨てた。 彼らにとって私は、蘇我家の金を目当てに人に媚びているだけの人間だった。 私は明雄に婚約を解消して、柔子と結婚してほしいと頼んだ。 けれど明雄は、私を平手打ちした。 耳鳴りがするほどの強さだった。 幼い頃、「僕がお前を守る」と言ってくれた少年は、冷笑しながら言った。 「こんなときに婚約を解消したら、柔子がお前をいじめたと思われるだろ。お前は柔子の評判を傷つけたいのか!」 そのとき、長兄のスマートフォンが突然鳴った。 助手の切迫した声が響く。 「蘇我さん、妹さんは家にいますか?」 長兄は、行儀よく座っている柔子をちらりと見て、軽く笑った。 「もちろん家にいる。柔子がコンテストの最終候補に選ばれたから、お祝いをしに来たんだろ?」 助手はため息をつき、焦った声で言った。 「私が言っているのは、美月さんです!」 長兄の顔色が変わった。 だが、すぐに苛立ったように言い返した。 「なんであいつのことを聞くんだ?どこで遊び歩いてるのか知らないが、スマホの電源も切れていて、もう何日も姿を見ていない」 電話の向こうで、ほんの一瞬、沈黙が落ちた。 そして助手の声が、今までになく強張った。 「蘇我さん……とにかく、すぐに警察署へ戻ってください。美月さんは事件に巻き込まれた可能性があります……」

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